1万ヒット記念SS:「3つの願い」 幕間 2



三女神のミミ様とカズ様は藤壺でハンカチを握りしめて唸っていた。

はっきり言って面白くない。
なにがって、いわずと知れた、鷹男と高彬の対決(?)シーンである。

御簾越しに、二人は言葉を交わし続けている。
高彬のあそこが素晴らしかった、当代一の若者だ、こんなすばらしい人はいないと、鷹男(=外見は瑠璃)が身振り手振りを交えてうっとりと高彬を褒め上げるのを、黙って聞き続けている二人。
鷹男の意図などお見通しだったが、面白くないものは面白くない。

「ミミ様、わたし達、いつまで高彬×瑠璃を見てなくちゃいけないんでしょう??」

さめざめと泣きながらカズ様は言った。

「そうですねぇ。これってある意味、拷問ですわね」

見ていて楽しくないのはミミ様もいっしょだったが、どちらかというと、勘弁して欲しいのは、鷹男が何か口にするたびに真に受けて「鷹男の裏切り者ぉぉ。高彬とくっつくなんて許さないわぁぁぁ」と号泣するカズ様だった。

ミミ様は溜め息をつく。
だいたい、高彬が鷹男(=瑠璃)を手篭めにするかも?!なんていうハル様のヨタ話を素直に信じる必要がどこにあったのか。
鷹男のえもいわれぬ色っぽさに妖しい雰囲気が流れているのは確かだけれど、ここには沢山の女房達がいる。過ちがおこる可能性は殆どない。

「誰がなんと言っても瑠璃についていくべきだったわ……」

ひとりでオイシイ思いをしているであろうハル様を思うと、ちょっと悔しいミミ様だった。

「わたし、すこぉし、権中将とソッチーがどうしているのか、見てまいりますわね」
「えっ、それならこのカズもお連れください!!」
「あら、ダメですわ。わたし達がいない間に何かあったらどうしますの? 鷹男の危機を助けるのは鷹男命のカズ様のお仕事でしょう??」
「はっ!! そうでした!!!」

単純なカズ様をうまく丸め込んで、ミミ様は藤壺を抜け出す。
勿論、清涼殿で手をとりあって震えているだろう権中将と、帥の宮なんて眼中にはない。
萌える状況がなければ、カズ様の絶叫癖は出ない。
あとはカズ様一人でも大丈夫だろうとふんで、ミミ様はお忍び中の瑠璃のもとへ行くことにした。

「待っててね、瑠璃姫vvv ミミが行くまで、おイタをしちゃダメよ〜〜〜vvv」

このあと、高彬が過って鷹男を押し倒すなどと想像もしないミミ様だった。



「ああああっ、何て事を!!! うっきゃーーーーーー!!! 鷹男の貞操がああああああっっっっ!!!!!」

戻ってこないミミ様を待ちながら、鷹男の逃亡劇を見守っていたカズ様は、高彬が鷹男を別室に引きずり込む(=カズ様視点ではそうなる)現場を目撃し、叫びまくっていた。

「おのれ、高彬ぁぁぁぁ!!!! アタシの鷹男に触れるなんて100年早いわ!! くらえ、怒りの業火!! 御殿もろとも燃やしつくしてやるーーーーーー!!!!!」

そんな事したら、鷹男も死ぬんだが、混乱中のカズ様は全然気付かない。
ぼうっっっ!!と、瞳の中に一昔まえの少女漫画炎のような炎が灯され、高く掲げた右手が紅蓮の炎に変わった!!!!

「くらえ!! サンダーボルトテンポー!!!!」

いや、それ別の話だし!!


パコーーーーーーーン!!!!!!

その時、カズ様の後頭部に、空から現れた巨大なハリセンが勢いよく決まり、カズ様はその場にばたりと倒れた。

「何をやっとるか、おのれはぁぁぁぁ!!!!!!!」

天から拡声器のような怒鳴り声が降りてきて、続いて雲間からさす後光とともに、両手にハリセン、背中にハリセン、ベルトにハリセン、全身ハリセンをしょった女性が登場した。

「ア、アマテラス・ユーキ様!!!!」

神様界のボスキャラ、ユーキ様の登場だった。
実は、このユーキ様、神様は人間にあまり関わってはいけないという原則を、鷹男と瑠璃に限っては解除すると宣言した、萌え三姉妹の擁護者だった。
今日も三姉妹が下界におりていったと報告をうけ、何やら楽しい事が始まりそうだと、仕事の合間にこっそり覗き見をしていた。
そして、カズ様の暴走シーンを目撃して、下界に降りてきたのである。

「まったく!! 上二人はどこにいったの!! あれほど下界でカズを一人にしちゃいけないって言ってあったのに!! 事件がおこるたびに書類を捏造するアタシの身にもなってちょうだい!!!!」

プリプリ怒ったユーキ様は、投げたハリセンを胸にしまいながら、カズ様に向き直る。

「今日はあたしがお目付け役になってあげるわ。いいわね、カズ!!」

要するに、ユーキ様、堂々と下界に下りる理由が出来てラッキーと思っていた。
密かに鷹男ウォッチングサイトを持っていたりするユーキ様、萌えと称して堂々と悪戯し放題の三姉妹が羨ましくて、自分も参加する口実を探していたのだ。
そこへ。

「いやーーーっ!! 助けてぇぇぇ!!!!」

瑠璃(=鷹男)の切実な悲鳴が二人の耳に届いた!!
それからの二人は早かった。
電光石火のごとく、鷹男と高彬がいる部屋へ飛んでいく。
するとそこにはあられもない姿をして涙を流す鷹男の姿と、両手を拘束して鷹男にのしかかる高彬の姿。

「あ、いや、これは……。誤解だ、瑠璃さん!!」

高彬が飛び退ってももう遅い。

「おーのーれぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーー!!」

再び瞳に炎を点火させたカズ様が几帳を高彬に投げつけ、柱までひきずっていって、ガコンガコンと頭を殴りつける。

自分も高彬にお仕置きしようとおもっていたユーキ様はカズ様の迫力に負けて制裁権を譲った。
混乱して頭をかかえてる高彬を後ろからポカスカ殴る蹴るの暴行を加えているカズ様だが、体より心の痛い高彬は一向にこたえていない。

「あ……、まあ、火をつけるんじゃないならいっか……」

ぽりぽりと頭をかきながらその様子を見守っていた。



「お願い、カズ様……」

カズ様が正気に戻ったのは鷹男のその言葉を聞いてからだった。
高彬から離れてぴゅーんと鷹男のもとへやってくる。
幸か不幸か鷹男には見えなかったけれど、その顔はだらしなく緩み、うきゃうきゃうっきゃーと踊りだしそうな勢いである。

「叶えて、カズ様、お願いフォー!!  瑠璃姫を内裏に連れ戻すまで、私と高彬の姿を取り替えてくれっ!!!!」

「待ってましたーーーーーー!!!!!」

なんだかんだ言ってもやる時はやるカズ様、目がきらりんと光ると、願いをかなえるべく天に両手をかざし、萌えの祈りを捧げはじめる。

「あっ!!! いけない、高彬が瑠璃の体になるなんてダメよっっっ!!!!!!」

絶叫したのはユーキ様のほうだった。
瑠璃の体になった高彬なんて堪えられそうにないユーキ様、とっさに簀子でおろおろと様子をうかがっていた小萩に乗り移ると、部屋の中にずかずかと進み、高彬の頭を得意のハリセンで殴りつける!!

ガコーーーーーーーーーン!!!!

ただのハリセンではない。
神様一族の中でも感電死した者がいるというほどのすさまじい威力を持った、裁きのハリセンなのである。まともにくらった高彬は、ぐげっと小さくうめき声をあげ、その場にくずれ落ちた。

どっかーーーーーーーーーーん!!!!

轟音と煙幕が立ちこめる中、入れ替わりは成功した。
気絶した高彬の精神は瑠璃の中に入り、瑠璃の体は宿主を失って倒れた。
一方、鷹男は高彬の中に入り込んで、すくっと立ち上がる。

小萩のあとを追って部屋へやってきた早苗が何が起こったのかわからず呆然としていたので、カズ様は早苗の中に入り込んで、早苗には眠ってもらった。
あとは皆様、ご存知のとおりである。
そうして準備が整い、鷹男は瑠璃を追って藤壺を去っていった。

「ほら、カズ、瑠璃を縛るのよ。手伝って!!」
「きゃ、呪縛プレイですねvvv 戻ってきた鷹男は喜んでくれるかしらvvv」

小萩と早苗に化けた二人は、鷹男と瑠璃が戻ってくるまで、ここで瑠璃が普通に過ごしているようにみせかけて、時を過ごす。
ちょっとだけいいですよね??と、瑠璃の着物を肌蹴て縄を食い込ませてみたり、アラレもない格好をさせてウキャウキャ騒いでいるカズ様。
高彬が目を覚ましそうになるたび、ハリセン電流で高彬を眠らせ続けるユーキ様。

だけどユーキ様は、そっと溜め息をつく。

「……上で覗き見してたほうが、鷹男と瑠璃の大立ち回りが見れたのかなあ?」

二人が騒ぎを起こすと信じきっているユーキ様だった。


6話の裏話です。ユーキ様、特別出演(笑) そして、カズ様、壊れまくっててゴメン(汗)

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