春を待つ頃



心ざし 深く染めてし 折りければ

消えあへぬ雪の 花と見ゆらむ

雪が花でないことは十分わかっていますが、
雪の残った枝を折ってみると、春を思う心からなのか、
それが花のように感じられます。



あなたが居ない日々に未だに慣れる事が出来ません。
寂しくて、寂しくて、御所の枝に降り積もる雪が、
春の花なのではないかと思わずにいられないのですよ。



                










昨日は昔の夢を見ました。

寒い冬の日にあなたの元へ伺うと、
そっと私の手を両手で覆って白い息をかけて暖めてくださいましたね。
その心が温かくて、私はいつも満たされていました。
そのあなたが、今、ここに居ない事が、
私は寂しくて寂しくて仕方がないのです。
辛くて仕方がないのです。




                












お加減が悪いと聞きました。
今すぐ、傍らに行きたいのに、許されぬ我が身が辛い。
あなたは心配性と笑うのでしょうが、私は生きた心地がしません。

こんな事ならば、里へ戻る事を許すのではなかった。
愚かな帝とそしられても、あなたをここへ縛り付けておくのだった。
私ゆえの苦しみに耐えるあなたの手を取ることさえ許されぬ愚か者を
どうかお笑いください。




                







春がきたら

春がきたら、あなたは戻って来てくださるのですね?
春がきたら、必ず、あなたは帰ってくるのですね?
春がきたら、本当に、戻って来てくださるのですね?

何度も、何度も、確認せずにはいられないのです。
あなたが、大切なあなたが、
このままいなくなってしまうのではないかと、
不安にかられて仕方がないのです。

春が来たら。
春さえ、やって来たなら。
私の不安は消えるのでしょうか。



                















鷹男は頭がいいのに、本当にしょうがないお馬鹿さんね。
あたしは少しも寂しくないし、何も不安は感じていないわ。

あたしには、あなたとの確かな絆を感じられるの。
鷹男のぬくもりを、いつでも感じられるのよ。
どんな不安があるというの?


目を閉じれはすぐに、鷹男の笑顔が浮かぶのよ。

−瑠璃姫

あなたの優しい声がいつでも聞こえるの。














ほら、
あなたの望んだ春が

あたしの中に満ちている。




だから、どうか。
あなたも笑っていて。

この幸福が
とこしえに続くように。








春がきたら
愛しい吾子を
春宮を抱いて
あなたはきっと戻ってくる。





春がきたら。

私達はもっと幸福になれる。



 絵:露香様
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