1万ヒット記念SS:「3つの願い」 2


混乱する事態にあやうく意識を手放しそうになった鷹男と瑠璃だったが、先に現実に戻ってきたのは、さすがといおうか当然といおうか、予期せぬ事態を何度もくぐりぬけてきている瑠璃だった。

「なるほどねぇ。この姿なら流石の鷹男も手が出せないってわけね?」
「そうなの!! 5日で元に戻るから、それまでゆっくり休養できるでしょう?」

三女神は瑠璃の前にずいっと進み、それぞれが瑠璃の手を握り締めている。

「で、その間、男の姿で楽しんできたらってことよね?」
「そう、それが目的なの!! 瑠璃がどんなことをするか、楽しみにしているのよ!!」

三人の表情はまさにうるうると、希望に満ち溢れていた。
どんな事を期待されているのかわからないが、男の格好で堂々と歩き回れるというのは瑠璃にとっても素晴らしく魅力的な提案に思えた。
三人と、瑠璃の利害は一致した。

鷹男の体をした瑠璃はにんまりと笑う。
三女神もほほほと笑い返す。
そして、鷹男だけが、がっくりと肩を落としていた。

「じゃ、また何かあったら呼んでくださいな! 願い事は残り2つですからね」
「わたしの呪文は、【叶えて、カズ様、お願いフォー!!】です!!!」
「まあ、それは素敵ね! では、わたしは【いやいや叶えてくれなきゃ泣いちゃう、ハル様ぁ】にするわ!」
「二人ともずるいですわ!! わたしももっと気の利いた呪文にすれば良かった〜」
「きゃはははははーー、萌え〜」

三女神達は笑いながら、ぼんっという音をたてて何処かへと消えていった。

「まて!! 我らを元に戻せ!!」

消えてしまった三人を前にそう叫んでみるものの、虚しい鷹男だった。
しかし、腐っても帝の鷹男、いつまでも放心状態ではいなかった。
瑠璃の姿のまま、凛々しく髪を書き上げながらにやりと笑う。

「願い事はあと2つという事は元に戻すという願い事も有効なわけだ」

けれど、その策略は彼の唯一の泣き所である瑠璃によってあっさり却下されてしまった。
瑠璃は鷹男の顔でにこりと笑っった。その笑顔は実に凶悪だった。

「そんな事したら、最後のお願いは【鷹男と離婚させて】にするからね?」
「ひ、姫?! それはあんまりな……」
「鷹男はこの際、女の身がどれほど大変なのかを身をもって思い知るべきよ! そうしたら毎晩毎晩、あんな無体な真似はできなくなるに違いないわ。いい機会だから、5日間、きっちり反省してちょうだい!!」

指をびしっと指さし、反対の手は腰に当てられている。
頬を膨らませる姿も、普段の瑠璃の行動そのものなのに、顔が自分だというだけで妙に気持ちが悪い。

「姫……私の体で女言葉を話さないでください。もっと男らしく振る舞ってください……」
「それを言うなら鷹男だって女言葉を使ってよ、じゃなくて使いなさい、姫?」

一応は言葉をあらためてそれらしく装う瑠璃であった。
そんなやり取りのあと、上機嫌の瑠璃は「明日は政務かー。ふふふ、楽しみーー。朝寝坊出来ないから早く寝よーっと♪」と、袿をかぶってすやすやと寝てしまった。
いつもならば瑠璃が寝入っていようがかまわず悪戯をしかけて現実に引き戻す鷹男なのだが、相手が自分の顔と体となれば話は別だった。
この体相手に何かを仕掛けようという気持ちには到底なれない。
瑠璃の思惑どおり、五日間の休養は守られそうである。

「姫……、離婚は勘弁してください……。いや、そうじゃない。離婚はイヤよ……」

何だかんだいいつつ、女言葉の練習などをする鷹男は、確実に敗者だった。



続く

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